北陸新幹線の大阪延伸について、快速線・湖西線の標準軌化によるミニ新幹線で実現する。
事業費は、フル規格の2兆円に対し、標準軌化なら5,000億円で同等の効果となり、新快速も高速化できる。

◆ 北陸新幹線延伸の事業費

北陸新幹線の大阪延伸は「小浜・京都ルート」に決定しており、事業費は1km当たり150億円で2兆円とされていて、国1兆円、JR西日本5,000億円、府県5,000億円くらいの分担が予想される。総延長140kmの内訳は、福井県40km、京都府70km、大阪府30kmくらいであるから、福井県1,400億円、京都府2,500億円、大阪府1,100億円くらいの分担が予想される。
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府県の負担額は、国が交付税で負担するため半分以下になると見込まれるが、北陸各県ではなく京都・大阪の負担が多いことに住民が反対し、頓挫する可能性がある。また、JR西日本にとっても大きな負担であり、コロナ禍で赤字の状況では二の足を踏みそうでもある。

このため、小浜・京都ルートに決定しているが、本当に事業が進むかは疑問である。そこで、同等の所要時間が実現できるミニ新幹線とし、事業費を大幅に圧縮した方が実現性が高いと考える。

◆ 事業概要

事業の概要は、「西明石~敦賀」の湖西線経由在来線を標準軌に改軌し、「近江塩津~敦賀」を単線並列化することにより、敦賀以南をミニ新幹線で京阪神に乗り入れるものである。ただし、「西明石~大津」の複々線区間では、列車線[快速線]のみを改軌する。

これに合わせて「三ノ宮~近江塩津」を高速化してミニ新幹線180km/hと新快速160km/hを可能にすることにより、京阪神地区の新快速を高速化できる。また、将来的には「マキノ~敦賀」にショートカット新線を建設してさらに短縮するのもよい。

事業は、次の①~⑤に区分され、まず1期工事として①~④を行うのがよい。
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「新大阪~金沢」の所要時間は、現在150分であるが、「敦賀~金沢」開業後は乗換時間を含めて130分と見込まれる。これがミニ新幹線1期工事で100分、2期工事で85分になることから、北陸新幹線大阪延伸後の80分と同等になる。
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つまり、2兆円が5,000億円と大幅に安くなるにも関わらず、同等の所要時間で関西と北陸を結ぶことができ、大阪駅や三ノ宮駅に北陸新幹線を乗り入れることができる。さらに、新快速についても標準軌化・高速化によって160km/h走行(表定速度130km/h)を可能とし、「大阪~京都」が28分から20分、「大阪~三ノ宮」が21分から15分にそれぞれ短縮できる。

ただし、新快速・快速は標準軌区間しか走行できなくなるため、複々線区間の境界である西明石駅と草津駅での乗換が必要となり、姫路や彦根などからは多少不便になる。

◆ 具体的な事業内容


① 列車線(快速線)の標準軌化

(ア)四線化
京阪神においては、秋田・山形新幹線のように長期間運休して改軌工事をすることは無理である。そこで、複々線区間「西明石~草津」のうちの列車線(快速線)及び湖西線において、分岐ポイント以外の全区間において四線対応枕木に交換し、標準軌・狭軌の計4本のレールを設置する。四線レールは分岐ポイントが複雑になるために使われていないだけであり、ポイント以外の区間は四線であっても支障は無い。四線対応工事は、通常の夜間保守の際に数年かけて実施し、運休はしない。
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改軌後に貨物列車・特急列車が各停線を走行することになるため、改軌に先立って各停線に退避線が必要となる。ホーム移設は大掛かりになるため考えないが、ポイント移設などで待避線を確保する。

具体的には、狭軌4線を確保できる須磨、摩耶、尼崎、大阪、新大阪、岸辺、高槻、向日町、京都、膳所の各駅では、退避可能である。また、狭軌3線を確保できる神戸、甲子園、山崎の各駅では、中線を上下共用の狭軌通過線とすることにより、退避可能である。

そのほか、快速線が外側にある区間で折り返しを可能にするため、標準軌の横断線を電車線(各停線)に挿入しておく必要もある。

車両基地については、標準軌の基地は西明石とし、新快速・快速電車の台車交換設備を建設する。なお、狭軌の車両基地は野洲と網干にする。

(イ)改軌工事
事前準備により、改軌時の工事は分岐ポイント部分が主体になるため、短時間で実施できる。そこで、「西明石~大阪」「大阪~草津」「山科~近江塩津」と3工区に分け、それぞれ週末の夜(金土日の3夜)に52時間運休をして改軌を実施し、合計3週間で工事を終わらせる。

金曜夜に狭軌ポイント撤去、土曜夜に標準軌ポイント設置、日曜夜に試運転を行うこととし、土日の昼間には台車交換や電気設備の工事を行う。線路工事は昼間に行わないため、各停線は走行可能であるから増発して運行する。ただし、複々線ではない湖西線では代行バスを走らせる。

改軌中途期間の平日の新快速・快速は、改軌境界となる駅(大阪又は山科)で乗り換えてもらう。貨物列車・特急列車は、各停線を走行する。

なお、四線状態のまま急カーブ区間で標準軌を走行する場合、狭軌レールに車輪が干渉する可能性がある。もし、そのような区間がある場合には、改軌工事の際に狭軌レールを撤去する。

(ウ)改軌後の狭軌撤去

改軌終了後は、四線状態で運用しつつ、数年かけて狭軌レールを撤去していく。

(エ)想定事業費
四線化は数年かけて保守と合わせて実施して経費を圧縮し、1km当たり5億円として全220kmで1,100億円を見込む。

また、台車製造・交換には1両当たり0.5億円とし、西明石以西と草津以東の車両は台車交換不要であるから全編成を交換するわけでないので、12両80編成で480億円を見込む。

そのほかに「各停線待避のためのポイント移設」に100億円、「標準軌ポイント製造・交換」に200億円、「改軌後の狭軌撤去」に120億円として、合計で2,000億円を見込む。

② 北陸本線の単線並列化

北陸本線「近江塩津~敦賀」の15kmは、名古屋・米原からの直通列車が必要となる上、貨物列車も走行することから狭軌を残す必要がある。しかし、列車本数が少ないことから、三線化や四線化して複雑にする費用対効果は低い。そこで、標準軌と狭軌の単線並列とし、途中の新疋田駅に列車交換設備を設置する。

上下線のどちらを改軌するかということになるが、勾配の緩いループ線(南行「上り線」)は貨物のために作られたものだから狭軌のままが良い。一方、敦賀駅の新幹線車両基地が駅東にあることを考えると、敦賀駅付近では南行「上り線」を標準軌にした方がよい。

つまり、「近江塩津~ループ線北端」は北行「下り線」、「ループ線北端~敦賀」は南行「上り線」をそれぞれ改軌し、ループ線の北端で交差させるのがよい。交差は平面交差と考えているが、南行「上り線」の方が盛土で2mほど高くなっているため、高さを合わせる工事が必要である。

敦賀駅付近では、標準軌を敦賀駅の南で分岐し、新快速は現駅に向かい、ミニ新幹線は新幹線車両基地を通って車両基地のスロープを登り新幹線駅に入る。スロープを登る前の車両基地内には、交直流デッドセクションが必要であろう。
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秋田新幹線は延長130kmの地上施設工事に600億円を要しており、その後の物価上昇を考慮すると「近江塩津~敦賀」の15kmの改軌では100億円を見込む。

③ 車両開発・製造

秋田・山形新幹線は全区間が交流であるが、北陸ミニ新幹線の場合、敦賀以南の在来線区間は直流であり、敦賀以北の新幹線区間は交流である。このため、交直流対応の標準軌ミニ新幹線車両を開発・製造する。ミニ新幹線は「関西~北陸」の単独走行とし、既存新幹線車両との連結や50Hz区間(新潟県以東)への乗り入れは想定しない。

交直流対応の高速列車としては、JR東日本E991系電車が知られている。E991系は、常磐線高速化のため最高速度160km/h(設計最高速度は200km/h)で1994年に製造され、180km/hの走行試験も行ったとされているが、試験車両のみで廃車となっている。

E991系が実用化されなかった理由は公表されていないが、踏切がある状態では160km/hでの走行ができず、速度を向上する必要性に乏しかったのではないかと考えられる。いずれにしろ、狭軌で180km/hの実績があり、様々な分野で27年前よりも技術が進歩していることを考えると、標準軌で180km/hの交直流車両を開発することは難しくないと考えられる。

車両開発費が100億円、新幹線車両製造費は1編成8両を12編成製造で400億円と予想し、車両開発・製造費は合計で500億円を見込む。なお、新快速・快速の台車交換経費は①に含んでいる。

④ 高速化

(ア)踏切除却
踏切については、湖西線には無いが「三ノ宮~京都」に40箇所程度あり、これを除却する。そもそも複々線区間では列車本数が多くて踏切は開かないため、大きな道路は既に立体化されている。このため、歩道橋を設置し、車両は近くの立体交差道路に回ってもらえば廃止できる場合が多い。

「三ノ宮~京都」で車両通行を確保するために踏切除却が難しいのは、
・さくら夙川駅500m西の踏切(Google Maps
・立花駅500m東の踏切(Google Maps
・山崎駅すぐ東の踏切(Google Maps
の3箇所くらいであろう。

これらの踏切はいずれも狭いため、大型車が通行することは少ないだろうから、大型車通行不可として工事用仮設スロープみたいな跨線橋を建設すれば、短期間で仮除却できる。その後、じっくりと本格的な立体交差を建設すればよい。

このように、歩道橋等で全踏切の除却ができると思われるが、それでも多少は時間を要すると思うので、まずは踏切除却が終わったところから高速運転を実施する。除却できない区間は、残存踏切の付近だけ最高速度130km/hで走行すればよい。踏切除却費用としては、歩道橋1箇所当たり5億円とし、40箇所で200億円を見込む。踏切除却が難しい3箇所の立体交差費用は道路予算になると思うので、ここでは計上しない。

(イ)その他の高速化
「近江塩津~三ノ宮」の区間において、ミニ新幹線180km/hと新快速160km/hを可能にするため、ポイント改良、カント調整、路盤強化、信号改良、ホームドア設置等を行う。そのほか、高速化で騒音が上昇する場合があるため、防音工事が必要でれば対応する。事業費としては、全体で200億円を見込む。

⑤ ショートカット新線

2期工事としては、「マキノ~敦賀」をショートカットする20kmの標準軌新線を建設する。
「マキノ~新疋田」は国道161号沿いに高架橋・トンネルを建設し、「新疋田~敦賀」は北陸本線沿いに高架橋・トンネルを建設する。

谷沿いであるためトンネル区間は短く、敦賀駅車両基地以南には市街地が無いために平均より安いだろうから1km当たり100億円とし、事業費2000億円を見込む。

◆ 工期

交直流車両の開発・製造にE991系を参考にできるならば、改軌も含めて既存技術である。このため、踏切除却が一部未了の可能性はあるが、2025年の大阪万博を目標として改軌を行うのがよい。

◆ 将来性

一旦四線化してからミニ新幹線にする手法は、運休しにくい他線の改軌にも応用できる。特急利用者数や貨物列車状況を考えると「小倉~大分」が筆頭候補だろうか。

西九州新幹線についても「鳥栖~武雄温泉~佐世保」を四線化して改軌した方が丸く収まるのかもしれない。