東京駅と成田空港を結ぶ鉄道アクセスを八重洲地下の「動く歩道」で実現する。
事業費は、東京駅乗り入れの4,400億円に対し、動く歩道なら400億円で同等の効果となる。

◆ 経緯

東京駅と成田空港を結ぶアクセスは、成田新幹線が建設途中で頓挫したため、代わりに「成田新高速鉄道」の整備を行うことになった。「成田新高速鉄道」は、「東京駅~都営浅草線江戸橋駅(1989年に日本橋駅へ改称)」と「京成高砂駅~成田空港」との2区間にそれぞれ新線を建設するものである。その他の「江戸橋駅~京成高砂駅」は都営浅草線と京成線を利用するルートにすることとし、1984年に運輸省(現在の国土交通省)が決定した。

その後、2010年までに「京成高砂駅~成田空港」は完成したが、「東京駅~日本橋駅」については目に見える進捗は無かった。

2000年に運輸政策審議会が答申した「東京圏交通網の基本計画」では、2015年までに着手すべき鉄道路線として、「都営浅草線を東京駅に接着し、東京駅と成田空港、羽田空港を一つの路線で連絡する」としている。この「接着」とは、宝町駅と日本橋駅の間から東京駅までの分岐線であり、「成田新高速鉄道」の残区間だけでなく、羽田空港方面にも運行できる計画に変更された。

その後、2015年までに接着線が着手されることはなく、2016年に交通政策審議会が「東京圏における今後の都市鉄道のあり方」を新たに答申した。この答申では、期限は記載されていないが、「都心直結線の新設(押上~新東京~泉岳寺)」が挙げられ、「成田新高速鉄道」の残区間は記載されなかった。なお、この「新東京」とは、と丸の内仲通りの地下に建設すると予想されている。

計画がアップグレードされて良くなったようにも見えるが、新線「押上~新東京~泉岳寺」の建設費は、2016年時点で4,400億円とされており、空港アクセスだけとしては高額である。このため、「成田新高速鉄道」の完成は、遠ざかったと考えられる。 

◆ 事業概要

東京駅の新幹線改札から都営浅草線までは600m離れているが、よく考えれば、わずか600mである。例えば、「東京駅で中央線と京葉線との乗換」や「羽田空港や成田空港で一番遠い搭乗ゲート」は、それぞれ概ね600mであり、一部に動く歩道を使うことにより、歩くのが通常である。

ちなみに、関西空港であれば、一番遠い搭乗ゲートまで800m離れている。2024年に予定されている羽田空港拡張計画では、800m離れた搭乗ゲートが計画されている。
そこで、都営浅草線の日本橋と宝町の中間に八重洲新駅を建設し、東京駅との間の600mを動く歩道で結ぶこととする。
八重洲1
想定される事業費は、次のとおりである。
八重洲2
東京駅接着線は分岐の急カーブで速度が出せない上、頭端線であるから駅進入速度も遅く、日本橋駅との間が3分程度要すると思われる。このため、八重洲新駅との差は
徒歩連絡を含めて5分程度であろう。
都心直結線の場合でも八重洲新駅との差は
徒歩連絡を含めて10分程度と考えられるが、4,400億円の事業費が400億円になるのだから、費用対効果を考えれば十分であろう。

◆ 具体的な事業内容

東京駅と都営浅草線八重洲新駅との間は、断面図では次図のようになる。
八重洲3八重洲通りの地下に歩道を建設することになるが、「東京駅~中央通り(銀座線)」の間は、地下1階に「八重洲地下街」、地下2階に「首都高八重洲東駐車場」がある。また、「中央通り(銀座線)~昭和通り(都営浅草線)」の間は、地下1階と地下2階に「東京都八重洲駐車場」がある。

つまり、地下歩道を新設する場合、これら駐車場の下となり、かなり深くなる上、トンネル工事費がかかる。そこで、駐車場は他にもあるのだから、駐車場の一部を廃止し、動く歩道を設置することにする。これにより、新たに地下通路を建設する必要があるのは、銀座線の地下だけとなる。
八重洲4
600mは分速80mとすると徒歩8分であり、分速40mの一般的な動く歩道を歩くことにより、徒歩6分程度で連絡可能と考えられる。

◆ 想定ダイヤ

羽田空港と成田空港を有料特急で結ぶ場合、退避駅が無い都営浅草線区間で先行電車に追いついてしまい、時短に限界がある。

都営浅草線は、「泉岳寺~日本橋」の輸送人員が多く、日本橋から北は減少する。そこで、先行電車は日本橋行とし、浅草橋まで回送した後、浅草橋駅北方の留置線で折り返す。これにより、先行電車がいなくなるので、高速運転が可能になる。人形町以北の駅では間隔が空くが、現在でもエアポート特急が一部の駅を通過して間隔が空いているため、間隔が空くことによる影響は小さいと考えられる。

先行電車を浅草橋行とする考えもあるが、留置線に入れる場合は降車確認に時間を要するため、日本橋駅で降車確認をして回送にしないと有料特急に追いつかれてしまう。

これらを踏まえ、都心部の乗降可能駅は品川と八重洲新駅だけとして想定ダイヤを作成した。八重洲5
八重洲新駅とは、羽田空港2427分、成田空港3942分であり、品川駅とは、羽田空港1316分、成田空港5154分となる。また、羽田空港と成田空港との間は、6571分となる。

都心直結線では、東京駅から羽田空港18分、成田空港36分であり、八重洲新駅では徒歩時間があるため10分程度多く要することになるが、費用対効果を考えれば十分であろう。

◆ 工期

地下に新駅を設置する工事が最も時間がかかりそうだが、用地買収が不要であるため、設計2年、工事2年の計4年くらいと思われる。2024年の羽田空港ターミナル拡張には間に合わないが、2029年に成田空港C滑走路が完成する予定であるため、2029年までに整備するのがよいだろう。

◆ 連絡バス

600mと近いが、荷物が多くて動く歩道を歩きたくないという場合もあるだろう。

八重洲・日本橋地区には、地域の企業等が協賛する「メトロリンク日本橋」という、無料の循環バスが運行している。運行時間は、10~20時に約10分間隔と高頻度であり、次のルートを運行している。

現ルート

このバスの協賛に成田国際空港株式会社、国土交通省東京空港事務所、京成電鉄、都営地下鉄、京浜急行等も参加することにする。その上で、次のようなルートに変更してもらえば、東京駅と八重洲新駅とを結ぶ無料の連絡バスとなる。

新ルート
その際、運行時間を6~20時に変更してもらえるよう調整する。出資者が増えることは既存の協賛企業にとっても負担が減ってよいであろうし、日本橋が空港への玄関口として便利になることは歓迎であろう。

◆ その他

八重洲新駅の完成に合わせ、20分毎のスカイライナーを15分毎とし、八重洲・京成上野のそれぞれで30分毎にするのがよいと考えられる。この場合、「成田湯川~空港第2ビル」の単線での列車交換が課題になる。

現在は、概ね中間点の根古屋信号場だけで交換可能だが、さらに中間点であるイオンモール成田付近とANAクラウンプラザ付近にも交換設備を増設するのがよい。イオンモール成田付近とANAクラウンプラザ付近であれば、新規に高架橋を建設する必要が無いので、それほど費用はかからないであろう。